恋より先に愛を知る
私はペンを取って走らせた。
【彼が悪いんじゃない。
私が勝手に傷付いてるだけよ】
「そんなことをしていたら病気が治らないだろ」
【治してみせる。頑張りたいからけじめをつけに行くのよ。
彼と初めて会ったこの公演で最後にしたいの。
大事な舞台で終わりにしたいのよ私は】
「大事なって、誰にとっての大事な舞台なんだ」
お父さんの言葉に、私は一瞬ペンを止めて考えた。
彼の大事な?
確かに彼はこの舞台を大事にしてた。
自分の大好きな歌を歌えることに喜んでいて、
頑張ってた。
だけど違う。
これは、この舞台は・・・。
【私にとっての、大事な舞台よ】
「・・・そんな公演を見たら、
絶対に会ってしまうだろ」
【会わない。黙って行くもの。
見たらすぐに帰ってくるわ】
「あかね。お母さんは行かせられない」
その時、
お母さんがリビングに入ってきた。
お父さんの横に座ると、
私を真剣な目でじっと見つめた。
なんで?
今までは賛成してくれていたのに、
どうしてここで反対するの?
お母さんは静かに口を開いた。
「男を引きずるなんてダメよ。
彼と一緒にいるために
大学に通っていたわけじゃないでしょ?
お別れをしたのなら、彼のことは忘れなさい」
お別れなんかじゃない。
あんなの、ちゃんとしたお別れなんかじゃないよ・・・。
顔も見ずに、お互いに傷つけあう言葉を投げ合った、
電子文字のさよならなんて、そんなのお別れじゃないわ。
私はそんな傷つける言葉を言いたかったわけじゃない。
困らせたかったわけじゃない。
迷惑をかけたかったわけじゃないもの。
「どうしても行くっていうなら、
大学もピアノも歌も、全部やめなさい」
お母さんの言葉は、
私にとって選ぶことのできない選択だった。