恋より先に愛を知る
2両しかない田舎の電車は古びていて、静かだ。
中学生や高校生がいなければ、ね。
私は端っこに座ってため息を一つつく。
まったく。あの変な男のせいで余計に疲れた・・・。
音楽でも聴こうとイヤホンを取り出す――はずだった。
あれ?
ここにしまったはずなのに・・・。
カバンをあさって探していると、
目の前に見慣れたピンク色の線がぶらぶらと揺れていた。
顔を上げると、さっきの男。
見事なまでに着崩した制服に、
明らかな校則違反の栗色の髪。
耳たぶで見え隠れするのは光るピアス。
それらを一瞥し、あからさまに嫌な顔をした私を見て
男は小さく笑って見せた。
「ちなみに、舌にも開いてるよ?」
んべっと舌を出した先には痛々しいピアスが一つ。
そこから視線を外して再度男を睨みつける。
「これ、アンタのだろ?そっちもガッコ終わり?」
私は男の手からイヤホンを乱暴に取り上げると、
一度頭を下げてからそれを耳につけた。
拾ってくれたのは有難いけど、
もうどっか行ってくれないかなぁ。
音を最大まで上げて目を閉じると、
ふっとイヤホンが耳から外れた。
「なぁ、無視すんなよ」
男が不満有り気に私を見下ろした。
「アンタ何年?落ち着いてるから3年か?」
・・・~もう!本当にしつこいなぁ!!
私はワザと大きくため息をついて、
男の目の前に手を翳した。
「・・・2年なの?マジかぁ。
んじゃあ俺のが1個先輩だな!」
はぁ・・・。
私はカバンからメモ帳を取り出してペンを走らせた。
【私、大学生なんだけど】
その紙を男に突きつけて思い切り睨み付ける。
そうしてまたイヤホンを取り上げて耳に当てた。