恋より先に愛を知る



そう。

ここで彼と喧嘩をしたのよ。





頑固な私は動くことはなくて、
ずっとそっぽを向くの。



彼が慌てて謝る姿が愛おしくて、
意地悪したくなってわざと怒ったふりをする。


彼が諦めて先に一人で帰っても、
必ず迎えにきてくれるってわかっている私は、



後ろから彼の声が聞こえるのを、
目を閉じて待ったりした。







この道は、彼が歌いながら歩いたのよ。


その歌を、目を閉じて私は聴くの。


そうして聴くと、
私の中に彼の声がよく響くから。



私が転ばないように、
彼が手を繋いでいてくれた。



その手が、とても暖かくて・・・。







このコンビニはいつも寄ってたなあ。


私の好きなグレープフルーツの
ジュースを買って帰るの。







この階段は、
彼が初めて私を迎えに来た場所。



彼の好きなラーメン屋さんから香る
いい匂いが鼻を掠める。









思いだせばキリがないくらい、
彼との思い出が詰まってる。


どうしてだろう。


忘れなくちゃいけないのに、
どんどん、どんどん思いだしていく。



だけど、思い出せないことがある。



彼が今日、歌うはずの歌と、
彼の笑った顔。






あんなに歌ってもらったのに。



あんなに笑顔を向けてくれたのに。





それなのに、私が思いだすことはなかった。




< 51 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop