恋より先に愛を知る
お父さんと別れて、
私はゆっくりと地面に足をつける。
見慣れた駅の改札前で、
人が多いことに戸惑いを覚える。
知っている人になるべく会わないように
願いながら、ゆっくりと歩く。
コートのポケットに手を入れて、
頑張って堂々と見えるように歩いた。
何事もないように、普通にしていなくちゃ。
それじゃあ、ここに来た意味がないのよ。
いつか戻ってくる時のために、
このくらい堂々と胸を張って歩けなければ、
私はこの先一生ここに戻ってはこられないもの。
大学が見えると、賑やかな声が響いてきた。
警備員さんが入り口前に立っていて、
にっこりと笑って会釈をする。
毎朝私はここを、
「おはようございます」って言いながら通ってたのね。
当たり前のことなのに、特別に感じてしまう。
扉の前で少し立ち止まって深呼吸をする。
ドキドキ、ドキドキ、胸の鼓動が強く打ちつける。
怖いのと、
緊張と、
不安とが入り混じって私を襲った。
気持ちを落ち着かせて中に入ると、
1年前のあの時と同じ、学祭の楽し気な空気が広がっていた。
ゆっくり、ゆっくり歩く。
みんな楽しそう。
いいなあ。
私もここに、別な形でいたかった。
去年のことを懐かしく思っていると、
誰かが私の肩をポンっと叩いた。
振り返ると、去年大学でもアルバイト先でも
お世話になった先輩が立っていた。
「あかねちゃん!久しぶり!!」
声をあげられずに、
にっこり笑って会釈をすると、今度は誰かとぶつかった。
「あれ!?あかね!?元気だった!?」
「あかねー!会いたかったよ!!大丈夫?元気?」
立て続けに友達と会ってしまい、
私はびっくりして固まった。
それと同時に、嬉しくて涙が出た。
みんな、みんな覚えてくれてた。
忘れてなかった。
私が、私がここにいたことを。