恋より先に愛を知る
私を見つけた彼は、
あからさまに嫌そうな顔をしてみせた。
ああ。
海斗、お父さん、じっちゃん。
みんなの言っていた通りになりました。
彼は私が来ることは、望んではいなかったのね。
これではっきりわかった。
どうしよう。帰ってしまおうか?
代わりに友達の出る
ダンスサークルの舞台を見に行こうか?
この列に並んでいることがなんだか恥ずかしくなって、
いたたまれなくなって、
私が少しずつ列から外れると、
後ろに並んでいたお兄さんが私の肩を叩いた。
「並ばないの?」
“あ・・。すいません”
声にならない声で咄嗟に謝り、列に戻る。
・・・やっぱり、私は観ていきたい。
これが最後なら、しっかり焼きつけて帰りたいの。
彼が望んでいなくたっていい。
迷惑がられたっていい。
私が、観たいの。
彼を好きな私としてじゃなく、
彼の一番のファンとして。
ずっと縮こまっていた姿勢をすっと正して、
私はまた堂々と胸を張って立った。
大丈夫。
大丈夫よ。
私はちゃんと、終わりにできるから。
時間が来て、列が動き出すと、
受付でパンフレットを渡される。
ホール内に入ると、まるで用意されていたかのように、
去年の席が空いていた。
去年と、1年前と同じ場所に座ると、
そっとパンフレットを開く。
(あ・・・)
特別探したわけじゃないのに、
開いて一番に目に留まったのは、彼の名前だった。