恋より先に愛を知る
<星沢和輝>
その名前を、去年と同じように指でそっとなぞる。
そうしてじっと眺めていると、
ふと視線を感じて顔を上げた。
私の座る席の斜め前あたりに、
私にLINEをくれたしおり先輩の顔が見えた。
私を見つけて手を振る先輩に、
私は笑いかけて頭を下げる。
先輩はすぐに私のところまで駆け寄ってきて、
笑いかけてくれた。
「あかねちゃん!来られたんだね!」
【私、今声が出ないんです】
私はノートを出してそう先輩に説明する。
「そっか、ストレスとかかな?早く治るといいね」
【ありがとうございます。私、
今日はちゃんとけじめをつけにきました】
「けじめ?それって、星沢のこと?」
【はい。今日は初めて会った特別な舞台だから。
これで終わりにしにきたんです】
先輩は私を哀しそうに見つめて、
それからまた笑った。
「そっか。偉いなあ。
その行動力、尊敬するよ。頑張ってね」
【ありがとうございます】
先輩と話しているとベルが鳴り響いて、
お客さんがみんな席に着き始めた。
「じゃあ、また後でゆっくり話そうね」
先輩の言葉に私は頷く。
先輩が席に戻ると、会場はふっと暗くなった。
さあ、始まる。
私の好きな、オペラの世界が。