恋より先に愛を知る
ああ、知ってる。
私はこの歌を、知ってるよ。
彼の部屋で、
あの道端で、
いくつもの練習室で。
私は誰よりもずっと、
この歌を聴いていた。
彼はこの先この歌を、
どんな女の子に歌うんだろう。
そんな彼の姿を、
どんな女の子に見せるんだろう。
私はもう、みることも聴くことも
できなくなってしまうのね。
特等席を降ろされた私には、
そんな機会はもうない。
変わらない彼が舞台に立っていて嬉しかった。
そしてもうこれが最後だと思うと切なくて、
胸が苦しくて、
涙でかすむ彼の姿が愛おしくて、
私はそっと目を閉じた。
目を閉じて、その声を聴く。
私の、癖。
その瞬間だけは、まるであの頃と同じ。
彼の隣にいるみたいで、
手を握って歩く彼の声を聴いているみたいで、
懐かしくて、懐かしくて、懐かしくて・・・。