恋より先に愛を知る



舞台が終わると、
お客さんが一斉にドアに向かって歩いていく。



私は涙を拭いてから深呼吸すると、
ゆっくりとホールから出た。



列になって歩くお客さんの両脇には、
出演者の人たちの見送りの姿。



ああ、そっか。これがあったんだ。



これじゃあ、見つからずに帰るなんて、
端から無理だったんだ。




列の流れが彼に近づいていくにつれ、
胸が苦しくなる。




だめだ。



これ以上ここにいると私は・・・。




私はすっと足早に人ごみをかきわけて通り過ぎた。



雑踏の中から出た途端、急に涙が込み上げる。




待って。



これでいいの?




本当に、これでいいの?




私は本当に、これで前に進める?




言いたいことが、たくさんあるのに?




それでもこのまま帰って、
私は前を向けるの?




階段をゆっくり降りるたびに、
涙がぽたぽた落ちていく。



ほとんどの舞台が終わって帰っていく人たちの
波に流されるように、無心で外へと出る。






ふと目に留まったのは、一つのベンチ。




私の、大事な思い出の場所。




ここは彼と、初めて話した思い出の場所。





私はそのベンチへと、去年と同じように座った。





そうして大好きな曲を流して、そっと目を閉じた。






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