恋より先に愛を知る
和輝が私の首元にさがったリングを見て、
ふっと笑った。
「それ、大事にしろよ。
今でもすっげえ溺愛しててくれてありがとな!」
何それ。
どこまで自意識過剰なのよ。
だけど否めないのは、本当にその通りだから。
「俺もリング、大事に持ってるよ。今日だって持ってるし」
【嘘つき】
「はあ?本当だから!上着のポケットに入ってるから!」
本当に、彼はその場しのぎの嘘が上手い。
そんな気を遣わなくていいのに。
対じゃなくなったことなんて
初めからとっくに知ってるんだから。
「プリクラだって、手紙だって、
くれたチョコの箱だって大事に取ってあるんだからさ」
どこまでが本当で、どこまでが嘘なんだろう。
そう思うとおかしくて。
私が笑うと、和輝は静かに微笑んで言った。
「そうやって笑ってるお前がみたい。
だから早く元気になって戻って来いよ。待っててやるから」
【でも、気まぐれじゃんか】
「俺はいつだって気まぐれだよ」
なによそれ。
きっとまた、何日も経ったら私が煩わしくなるんだろうなあ。
この人はそういう人だもの。
中途半端につなぎ留めておくのが得意。
突き放したりできない人。
だから、苦しい。
いっそのことはっきり嫌いだって言ってほしかった。
私への気持ちがもうないのなら、ここに来ないでほしかった。
そのほうが、楽だったのに・・・。
それでも会えたことが嬉しくて、
嬉しくてたまらない自分がいる。
私はきっとこれからも、この恋からは抜け出せないわ。
だってどんな彼でも、大好きなんだもの。
和輝がふと、私をそっと抱き寄せた。
その手が暖かくて、優しくて。
ダメだってわかってるのに、
その背中に手を回して抱きついた。
本当にこの人はずるい。
自分は突き放すくせに、私を完全に離してはくれないのよ。
「またこうしてほしかったら、頑張って治せ。な?」
私が頷くと、和輝は笑った。
「じゃあ、気を付けて帰れよ?」
【ありがとう】
「またな」
“ばいばい・・・”
紡がれた“またな”って言葉に、
“ばいばい”を返す。
私は振り返ることなく、駅に向かって歩きだした。