恋より先に愛を知る







暗い駐車場に止められた車の扉を
こんこん、と叩いた。



運転席からロックを解除したお父さんが、
私をじっと見て言った。




「楽しかったか?」



私が頷くと、お父さんはそうか、
と言って車を発進させた。



学校を通り過ぎて、
車は私の住んでいた場所を通った。







あの日の事件を思い出す。


そうすると、ズキズキと頭が痛い。


疼いた腕の痣が痛み出す。



それに気づいたのか、
お父さんが袋を取り出して私に手渡した。





袋の中を見ると、
思わず泣きだしそうになった。



だって、私の一番好きなグレープフルーツの・・・。








“ありがとう、お父さん”







私はそっと口を動かして、
涙を見られないように窓の外を見た。



どんどん通り過ぎていく景色を眺めて、
私は胸元のリングをぎゅっと握りしめる。






まだ、温かい彼の手を覚えてる。




目を閉じると、舞台で歌う彼の姿を思い出す。






うとうとと、安心したように私は眠りに落ちていった。







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