恋より先に愛を知る
☆
暗い駐車場に止められた車の扉を
こんこん、と叩いた。
運転席からロックを解除したお父さんが、
私をじっと見て言った。
「楽しかったか?」
私が頷くと、お父さんはそうか、
と言って車を発進させた。
学校を通り過ぎて、
車は私の住んでいた場所を通った。
あの日の事件を思い出す。
そうすると、ズキズキと頭が痛い。
疼いた腕の痣が痛み出す。
それに気づいたのか、
お父さんが袋を取り出して私に手渡した。
袋の中を見ると、
思わず泣きだしそうになった。
だって、私の一番好きなグレープフルーツの・・・。
“ありがとう、お父さん”
私はそっと口を動かして、
涙を見られないように窓の外を見た。
どんどん通り過ぎていく景色を眺めて、
私は胸元のリングをぎゅっと握りしめる。
まだ、温かい彼の手を覚えてる。
目を閉じると、舞台で歌う彼の姿を思い出す。
うとうとと、安心したように私は眠りに落ちていった。