恋より先に愛を知る



「あかね、彼からなんだったの?」




後ろからお母さんの声がして、私は振り返った。


「あかね?どうした??」


気づくと涙が溢れていて、
私はお母さんにしがみついて、声をあげて泣き出した。


全てを話すと、お母さんは
私を宥めるように背中をさすって言った。



「あかね。落ち着いて聞いてね。
 今は病気のせいでいろんな言葉に過敏に反応するかもしれない。

 それはしょうがないことだから。だからかずさんの言葉が
 傷ついたっていう気持ちは間違ってない。


 だけど、かずさんだってそんなつもりじゃないのかもしれない。
 だから、今日のかずさんからの言葉は忘れなさい。


 そうじゃないと、崩れっぱなしで悪化しちゃうからね」





わかってる。



悪いほうに考えすぎなことくらい、わかってる。



でもそう考えずにはいられなくなって、哀しくて苦しくて。




叫びだしたくなるの。




悲鳴をあげたくなるの。




それを抑えようとすると、
自分を深く傷つけてしまうの。




我慢をすればいいのか、


わき目もふらず壊れてしまえばいいのか、



それすらもわからなくなる。





助けてって言いたくなるの。




お母さんは泣き止まない私の背を、
優しく優しくさすった。




「それにね?男ってそんなものだから。誰でも不安になるのよ。
 だから、不安を消したくて聞いてきたっていうのなら、
 許してあげよう?

 
 女からすれば傷にはなるけど、それもしかたないのよ」





落ち着いて、落ちついてって、
そう宥めてあったかいココアを入れてくれた。




私は涙を拭いてココアを飲むと、
安心してうとうとしてきた。





そう。



どうしてそんなことを聞いたの?





それは彼にしかわからないから、
私が考えたって仕方ない。




お母さんの言葉に妙に納得して、
私はその日、安心して眠りに落ちた。





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