恋より先に愛を知る



海斗が困ったように私を見て、
それから心配そうに私の顔を覗き込んだ。



「あかね、どうした?何があった?」


「来ないで!!触らないで!!
 何もしないって言ったじゃない!!」



「大丈夫か?どうしたんだよ。
 俺だぞ?何もするわけないだろ!?」



「嘘つき!何もしないって言ったのに
 ・・・嘘つき!!」










今でも身体に残る、おぞましい感覚。





首に、


胸に、


腰に、


手に・・・。





自分が穢れているようで、消したくて、消したくて、



狂ったように身体中をこすって傷を消そうとした。




みんなには見えない、深い深い傷を。




怯えたように海斗の腕の中から
飛び出したハルさんが、私の手の甲をひっかく。



それさえもあいつのものだと思い込んで、
私はまた叫び出す。






もう、自分が自分でないような感覚だった。



自分の中で、別な自分を見ているようだった。





「あかね!」





「海斗!その子に触るな」







私の横から声がした。



しわがれた、安心感のある声。



じっちゃんの手が優しく私を抱きしめた。






一瞬であの男の感覚が消えて、
いつもの階段のそばにいることを理解して、




私は途端に泣き崩れた。





じっちゃんの腕の中にしがみついて、
今まで我慢してきた悲痛な声をあげた。





海斗、じっちゃん、ごめんなさい。






これが、彼の前でなくて良かった。





彼の前で、こんな姿を晒さなくて、
本当に良かったと思った。





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