恋より先に愛を知る



池内葵ちゃん。



海斗の1個上の先輩だった。


同じ高校の先輩で、バスケの上手い先輩に
憧れてバスケ部に入った海斗は、

いつしか葵ちゃんを好きになった。



葵ちゃんも、海斗が好きだった。


だけど、海斗が告白しても、
葵ちゃんがそれに応えることはなかった。


病気があるからだったんだね。



「俺はさ、病気なんか関係ねぇって言ったんだ。
 そうしたら葵、ようやくOKしてくれてさ。


 嬉しかったよ。絶対俺が幸せにするんだって、
 本気だった。だけど・・・」






病気は想像以上に辛かった。



悪化していく病状や、
何度も入退院しなければならない精神的苦痛に、


葵ちゃんは情緒不安定になっていった。



優しかった葵ちゃんの性格が急変し、
海斗にまで八つ当たりをしてしまう。




そんな葵ちゃんに、海斗は疲れていった。




高校生の海斗には、全てを支えることは無理だった。



「俺さ、急に怒って暴れ出す葵に耐えらんなくなって・・・
 もう無理だって言ったんだ」



「・・・そう」



「葵、急に泣き出してさ。
 “私は海斗がいなきゃ生きていけない”って言い出したんだ」




葵ちゃんにとってはそうでも、
海斗にとってはピンと来ない言葉だったのかもしれない。



だから、伝わらなかったのかもしれない。



海斗は気持ちを落ち着かせるように息を吐くと、
そのまま続けて言った。



「俺、すっげぇ酷い言葉並べてさ、
 勝手にしろよって言ってそのまま離れたんだ。


 今思えばガキだったなって後悔してる」










“勝手にしろよ”








覚えのある言葉に、一瞬ドキッとする。



胸がしめつけられていく。



あの人を、思い出す。




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