鈍感ちゃんと意地悪くんの短編集
「せ、瀬田、いたの?」

「いたの? じゃねぇよ。
まったくボケっとしやがって、お前は本当に危なっかしいな」

頭の上から、隙だらけ、と言う瀬田の呆れたような声が聞こえる。
それから、不機嫌そうに言った。

「お前さ、人の彼女、横取りするつもり?
俺と美空が付き合ってるの、知ってんだよな?」

「あっあの……」

ぎゅっとさっきより強く抱きしめられながら、あたしは困ったように目の前の男子生徒の様子を伺った。
やっぱり赤い顔で、どうもオロオロしているように見える。

「こいつは優しいだけの男より、意地悪で優しい俺が好きなの。
わかる? 美空は、俺が、好きなの。
な、美空?」

そんなに堂々と人前で言うこと?
あたしは恥ずかしくなりながら、でも返事をしないわけにもいかなくて、小さく小さく頷いた。
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