君色のソナチネ
ー奏sideー
今までとは打って変わった純怜の演技が、台詞が、本当に俺に向けられている気がした。
そんな筈は無いのだが、俺が勘違いをしてしまいそうなほどに、彼女は、恋する紗良役を完璧に演じていた。
彼女の演技のおかげなのか、はたまた、俺が彼女を意識しているせいなのか、俺の演技も少しはマシになったのではないだろうか。
練習後、いつも通りにからかっていたら、演技中でもないのに顔を赤くする純怜。
恥ずかしそうにしているのを見ると、余計にいじめたくなって''謝れ''とわざと催促してみる。
純怜はそれを本気にして必死に謝ろうとするが、それが出来なかったのかぎこちなく逃げ出した。
なんだこの小動物。
今までこんな反応あったか?
可愛すぎるだろ。
思わずそう言いそうになったが、それを抑えると自然と動く俺の身体。
…何やってんだよ、こんな事したら俺の気持ちのほうが危ねぇだろ。
クラスの奴らだっているんだ。
理性が働くがそれも虚しく、純怜を引き寄せ、超至近距離で軽く睨んでいた。
「ご、ご、ご、ごめ、ん、なさ、い。」
顔を真っ赤に染めて、目を一瞬だけ合わせたかと思うとスグに下を向きキョロキョロさせる。
やっと言葉が出てきたかと思うと、噛みまくり。
噛んだ事が余計に恥ずかしかったのか、湯気が出るんじゃねぇかと疑うほどに顔をさらに火照らせ、身をよじり少しでも俺から離れようとする。
…もう完敗だ。
プライドが許さなくて今までずっと見て見ぬ振りしてきたが、こいつはいとも簡単に俺の中に土足で踏み込み、あっという間に俺の心を占領しやがった。
そして、一生女なんか好きにならないと思っていた俺に、今まででは考えられないような初めての経験をいろいろさせたのも純怜だ。
初めて興味が湧いた女。
初めてからかいたいと思った女。
初めてほっとけねぇと思った女。
初めて可愛いと思った女。
俺、いつの間にかこいつの事、こんなにも思ってたんだな。
俺が守りたいし、俺にしか笑顔を見せるなよと、そんな風に思っている自分。
まるでストーカーだな。
まあ、俺の女になったら心配しなくていい。
絶対彼女にしてやる。
そう決意して、最高の笑顔を見せると、最高に顔を赤くした純怜がいたーーーーー