君色のソナチネ
「それで?何があった?」
私をピアノの椅子に座らせて、聞いてくる神峰。
本当に言いにくいけれど、自分だけではどうにもできそうにないから話してみるしかない。
ピアノの蓋に映る自分の顔が惨めすぎるよ…。
「2日目の公開の文化祭のこと、すっかり忘れてたの。
先輩に言われて気づいたんだ。
でも今更どうしたらいいかなんて分からなくて。
みんなに迷惑ばかりかけてるのに、これ以上の迷惑なんてかけれないよ…。」
呆れられるのを承知で話してみた。
「…なんだ、そんなことか。」
体を硬くして神峰の言葉を待っていた私に返ってきたのは、予想もしなかった言葉。
間抜けた声に、私もちょっと気が抜けそうになったけれど、こんなに悩んでるのに、''そんなこと''呼ばわりされたことがショックで。
「そんなことって何よ!こんなに悩んでるのにっ‼︎」
思わずそう怒鳴ってしまう。
自分で蒔いたタネ。
神峰に当たるなんておかしいって分かってるのに…。
神峰の顔を見れなくって、この狭い空間に2人きりでいることが居た堪れなくなる。
「ごめんっ」
そういって出て行こうとしたんだけど、私が開けた扉は後ろから締められる。
「待てよ、誤解すんなよ。」
流れる沈黙。
こんなに気まずいのは初めて。
だからもちろん振り向けなくて、感じる時間がとてつもなく長い。
自然と下を向く顔。
自分の足と、すぐ後ろに神峰の足が目に入る。
なんでまだ背後にいるの?
もう私のことなんかほっといて。
ほっとかれたらどうなるか想像するのも怖いくせに、弱くてセコい私はそう思うしかないんだ。
「ッチ。」
え?舌打ちですか?
そう思ったとき、
「ガチャ。」
後ろから腕が伸びてきて、扉が開かれた。
「ついてこい。」
そういって、私の手首を掴んで引っ張る神峰。
「い、痛い。」
掴まれた手首が、キリキリ痛む。
私がそう言葉にした瞬間力を少しだけ緩めてくれる。
でも、そんな神峰の優しさも今の私には苦しいよ。
「ねぇ、どこにいってるの?」
「いいから黙ってついてこい。」
なにも教えてくれない神峰。
引っ張る力が強いからついていくしかなかった。