君色のソナチネ





…みんなの優しさで胸がいっぱいになっているうちに、迷ったらしい。


地元なのに、迷うなんて、さすが私。

気が付いたら空は夕焼けで赤く染まっている。

周りには見たことのない風景。

通ったことのない道。





学校は、街の中では比較的、田舎にある。
というか周りは何もない。
5月頃になると草原が広がる。
空気が綺麗で、隔離されているみたいなんだ。

田舎にあるけれど、そのおかげで、私の家から学校までは一本道だから、今まで迷うことなんてなかった。




学校から出て、少しいくと、両脇に田んぼや、小さな林が広がってくる。

そんなあまり変わらない風景の中、また15分くらい歩くと、住宅地に入る。
私の家は、その住宅地に入ってすぐの、一軒目。

そこまでずっと一本道。



ちなみに、住宅地から自転車で10分くらい行くと、ファッションビルや企業の建物などが立ち並ぶ街に出る。
学校の中央棟のてっぺんから、向こうの方に見える街が、ここ。
老舗のデパートや、集合型テーマパークもある。
急に都会が現れた‼︎って感じなんだよね。



でも、その都会まではいってないはず…たぶん。





ここはどこなんだろう。

本当にここ、地元なのかな。

そう疑ってしまうくらい、綺麗な場所。



私がいま歩いているこの道も一本道で、道の先を見ると丘がある。学園の丘ほど大きくなんてなく、むしろ小さい、こじんまりとした丘。


その丘の一番高いところに、教会がたっていて…。

その教会の隣に立つ大きな大きな木。
たぶん、あれは桜の木だよね。

樹齢何年なんだろうと思いながら、道の脇をみると、可愛らしい小さな白い花をつけた草が咲いていて…

…その、小さな白い花を咲かせている草が、私のいるこの辺から、あの小高い丘まで一帯を覆い、草原になっているみたい。



「そっか、明日から4月。もう春だもんね。」



私が忙しくしている間に、もうすっかり植物たちは活動を始めているんだ。


そう思っていると、沈んでいた太陽が早くも地平線まで辿り着いたのか、より一層空が赤くなる。



そして、その白いカーペットを赤く染めた。







「…き、れい。」







その圧倒的な美しさ。






1人孤独に天に向かって十字架を掲げている教会。






その教会を守るために、

大きな桜の木が寄り添い、

小さな白い花の草原が包み込み、

太陽が温もりを分けているみたい。






まるで、印象派の絵画の中に自分が入り込んだかのような、不思議な感覚。






こんなところがあったんだ…。













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