君色のソナチネ





教会の方へ自然と足が向く。


近くまで来てみると、その教会は石造りになっていて、ヨーロッパみたいな雰囲気を醸し出している。

印象派なんて言ったけれど、それもまんざらじゃないな…なんて思って、ちょっと笑えた。


隣に立つ大きな木は、やっぱり桜だった。
蕾をぱんぱんに膨らませて、今にも咲きそう。


「…この桜が満開になったら、それも絵になるだろうな。」


そう呟きながら、教会の扉に手をかける。

その頃にはもうすっかり太陽も沈んでいて、月の光が明るく丘を照らしていた。





「…空いてるかな。」


扉を開くと、そこには、外の世界とは違った、また幻想的な空間が広がっていた。



ステンドグラスから差し込む月の光。

木で作られた長椅子が並べられている床をカラフルに写し出している。



教会の前方、中央の柱に十字架を背負ったキリストが掲げてある。



その前の空間の左端にはグランドピアノが置いてあって、子供たちが合唱をしている。



入っちゃだめだったかな。
そう思って、引き返そうとすると、奥の方からでてきた、神父様が、


「お久しぶりです。大丈夫ですよ、ゆっくりしていってくださいね。」


優しく笑顔を向けてくださった。


お言葉に甘えて、少し、いさせてもらおう。
そうおもって、一番後ろの右側の椅子に座る。



あの神父さん、私の事誰かと間違えたのかな。久しぶりですって言われても、私、ここに初めてくるし、あの神父さんとも初めて会うから知らないのにな。

まぁいいか。





それにしても、この教会、響くなぁ。

大人の人が伴奏しながら、子供達に教えてるみたいなんだけど、ピアノの音も、子供達の声も石に反響してるのか、すごく響いてる。



先生達が言ってた、ヨーロッパの教会で弾くピアノの音色もこんな感じなのかな。


私にとって、こんなに最高の空間無いよ。
なんで今までこの教会のこと知らなかったんだろう。



そう思いながら、この教会の空気、綺麗な音色に浸りかけたとき、


「…なんだか懐かしい。」



自然に自分の口がそう呟いていた。




今までこの教会知らなかったのに。

さっき、神父さんに久しぶりって言われたから、勝手に脳みそが勘違いしたんだな。

うん、きっとそうだ。






< 131 / 278 >

この作品をシェア

pagetop