君色のソナチネ
するとそこに立ち尽くしている、見覚えのある後ろ姿。
「おい。」
そう声をかけると、びくっとして振り向いた彼女は、俺の顔を見るなり安心したような表情を見せる。
なんでここに純怜がいるんだ?
しかもこんな時間に危ねぇだろ。
そんな事を思いながら聞くと、疑問は無くなった。府には落ちなかったが。
学園から帰る途中で迷ったって、どうしたらここまでくるんだよ。
そう思わずにはいられない。
途中じゃなくて最初から間違ってるじゃねぇか。
だがそれにも気が付いていない様子。
こいつが方向音痴という事は春咲に聞いていたが、ここまでだったのか。
今ではそれも可愛く感じるんだから、俺はこいつにベタ惚れだな。
というか、可愛すぎるだろ。
本当、やめて欲しい。
気持ちが抑えられなくなるじゃねぇか。
そう思っていると、盛大にため息をついていたらしく、純怜が目に涙を溜めていた。
それも可愛い。
くそ。
思わず歩きながら告りそうになる。
…まだその時じゃねぇ。
もう少し待つんだ。
だが、俺の体は正直なもんで、純怜の体を引き寄せていた。
深呼吸をゆっくりして、気持ちを落ち着かせてから純怜を離す。
迷われるのは迷惑だから、明日から毎日送らせろ。
意味の分からない俺の言葉に頷く純怜。
幸せって、こんな気持ちを言うんだろうな。
そう思いながら、純怜の家に向かって歩き出した。