君色のソナチネ





…たぶん、ここにいる私以外のほとんどの人が、オマケ程度な質問だって思ってるよね。

だからさ、私。

適当に誤魔化せばいいの。

ほら、はやくっ!

早く言わないと、気分が悪くなるから。

こんなところで倒れる訳にはいかない。

「…3歳です。」

言えた。

本当は何歳から始めたのか分からない。

なぜ、自分がピアノを弾けるのか。

まるで、ピアノの弾き方だけ体が覚えてるみたい。

それ以外のことなんか、何も覚えてない。

考えだすと、物凄い頭痛が襲ってくる。

でも、もう大丈夫だよね、質問も最後だったでしょ?




そう思ってホッとした時。

「3歳ですか。
始めたきっかけって何だったんですか?」




え?きっかけ?

どうしよう。

そんなの分かんないよ。

きっかけ?私にもきっかけなんかあったの?

だんだんと襲ってくる頭痛。

上手く何か言えればいいんだ!

はやく何か言わないと…




「は、はが…」




え?母?

私、お母さんなんていないのに、何でよりによってそんな想像しにくいこと口走っちゃうのよ。

ますます増してゆく頭痛が、気を遠くさせる。

背中を流れる嫌な汗に、どんどんと体の熱をうばわれる。

早くいわないと、もたないっ!


「…母が、ピ、ピ…ア」

あっ、思ったよりダメかも。

足がガクガクしてる。

神峰、助けて…。



「おい、お前、質問しすぎじゃね?」

「っ‼︎。」



後ろから感じる温もり。



「…か、みね…?よかった…。」

「すまん、許せ。遅くなった。」




許せもなにも、来てくれただけで、私は安心なんだよ?



「よく頑張ったな。後は俺に任せていいから。
もう身体、預けていいぞ。」

私の頭を撫でながら、私を抱き上げる神峰。

あっ、えっと、これって、お姫様抱っこ、だよね?

皆んなの前なんだけど…な…。

でも凄く安心する。

それと同時に気も遠くなって…。

瞼が重くなる。

でも、さすがに気なんか飛ばせないよね。





その時、近づいてくる神峰の顔。

「なに、して…っ‼︎」

でも、その先は驚きで言えなかった。




静かに瞼に落とされるキス。

「目瞑って寝とけ。」

そう言って。





私のこと、私以上にわかってくれてる人が、1番身近にいる。

その安心感に、恥ずかしさとドキドキを感じながら私は気を飛ばしたーーーー




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