君色のソナチネ
ー奏sideー
くそ、純怜がこんなになるまで質問しやがって。
この先輩が悪いわけではない。
それは分かっている。
この男だって、委員会の仕事でやってるんだからな。
集団が味方につくと、どんなに有能な人間でも、人の変化に気がつかなくなる。
知らない間に相手を傷つける。
悪気なんて全くない、実際に、誰も悪くないのかもしれない。
人間の怖いところだ。
「先輩、すみませんが、こいつを保健室に連れていってもいいでしょうか?
こいつ、棄権させてやってください。」
俺が決めていいのか迷ったが、この状況じゃな…。
「みなさん、今から30分間の休憩とします。
次は、特技に移りたいと思いますので、また30分後にお会いしましょう!」
…は?
「神峰、だったよな?
その、すまなかった。
30分じゃむりか?」
この先輩、やはり本当はいい人なんだな。
だが、今は純怜の身体が第一だ。
「すみません、気遣っていただいて。
今は何とも言えないです。
やはり、こいつの体調が1番なんで。
一応、席まだ空けといてもらえますか。」
「あぁ、勿論だ。
このミス空丘の為にも、神峰、よろしくな。」
みんな、この文化祭を成功させようと必死なんだ。
おれは保健室へ急ぐ。
特設ステージ裏の中央棟。
近くて助かった。
純怜をベッドに寝かせる。
「私、迷子になった子のケアに呼ばれたから、神峰君、水姫さんの隣についてあげて。たぶん、スグに目をさますと思うわ。」
保健の野坂先生の言葉を聞き、純怜が寝ているベッド脇のパイプ椅子に座る。
苦しそうな表情の純怜。
何かにうなされている…?
「…お、かさ…、ごめ、な…い…。」
こいつ、両親いねぇんじゃなかったのか?
一粒の涙がこめかみをつたう。
「大丈夫かよ…おまえ…。」
はぁ、俺、なんでもっと早く助け舟出さなかったんだろ。
質問をしまくる奴と、それを好奇な目で見ている観衆に確かにイライラしていた。
恥ずかしそうにしている純怜を他の奴らに見せるのも嫌だった。
だが、純怜の俺に対する気持ち。
聞きたくないわけがない。
それに、ピアノに関して触れてもらわないほうが純怜の為でもあった。
質問が終わると思った時はホッとした。
残念な気持ちも多少あったが。
だが、そのホッとした気持ちもすぐに砕かれる。
ピアノについて聞きだしたからだ。
お願いだから、純怜の傷にふれるなよ…!
そう思うものの、無情にもピアノを始めた頃についてズカズカと聞く司会者の先輩。
やばい、すぐに助けるべきだった。
間一髪。
足がガクガクして、膝から落ちそうになっている純怜を抱きとめた。