君色のソナチネ
ピアノの過去の話になると、必ず彼女に現れる異変。
こんな風になるほど、彼女に根付く強いトラウマ。
でも、彼女は、記憶がなく、自分自身でも何故そうなるのか分かっていない。
そんな純怜に何もしてやれない俺。
腹がたつ。
「…神峰?」
下を向いていた俺の頬に感じる暖かさ。
「悲しい顔してる。」
横を見ると、いつの間にか起き上がって、心配そうに覗き込みながら、俺の頬に手を当てている純怜。
「純怜、ごめんな…。」
そう言って肩を抱き寄せる。
「何言ってるの?
神峰は私のヒーローなんだよ?
いつもいつも、助けてもらってるし!
それに、神峰が隣にいてくれるだけで、私は笑顔になれるんだ…よ?」
そういって俺の腕の中から見上げて、顔を赤くしながら笑う、珍しく素直な純怜。
彼女の照れが伝染したのか、たぶん今、俺の顔も赤くなってるんじゃないだろうか。
そんな俺を見て、また顔を赤くする純怜。
「純怜、」
「ん?」
「お前の過去に何があったのか、俺は知らない。」
「もう、なに、急に…!」
笑いを漏らす彼女。
でも、それに反して震えだす身体。
「…でも、お前の過去に何が起きていようと、俺は一生お前を好きでいる自信があるからな。」
「…え?」
「だから純怜、ゆっくりでいい。
怖いかもしれないが、ゆっくりでいいから、自分の記憶に向き合え。
そして、記憶と気持ちの整理がついてからでいい。
何年かかってもいいから、俺に話してくれ。
お前の荷物を半分、いや、俺男でお前より力持ちだから、7割くらい背負ってやるよ。
俺がずっと隣で支えてやる。」
涙を流す彼女。
「ありがとう…。そ、う…。」
…初めて名前、呼ばれたな。
うつむきながら俺の背中にぎゅっと手を回した彼女が愛おしい。
「奏、大好き。」
小さく呟くと、体を預けてきた彼女。
そんな彼女の顎をクイっとあげ、ピンク色の唇に二度目の軽いキスを落とす。
ビクッとする彼女の体。
少し震えている。
まだ、これ以上はムリ、か。
リップ音を立てながら唇を離す。
「神峰…?私、大丈夫だよ?」
すると、何を思ったのか、そんな事をいう彼女。
こんな時まで俺のこと考えやがって。
震えてるくせに。
本当にどこまでも相手思いの可愛いやつ。
理性を必死に抑えてるコッチの身にもなってほしい、まったく。
「ばぁーか、焦んなくていいの。」
そう言って、彼女のおデコをコツンとすると、恥ずかしそうに俺を見上げて、睨んでくる。
だから、それ上目遣いになってるんだって。
「時期が来たら、いっぱいいろんなことしてやるから。」
純怜の耳元に口を寄せて囁く。
慌てて両手で俺が囁いた方の耳を塞ぐ彼女。
指の隙間から見える耳まで真っ赤になっている。
あー、可愛い。
いじめたい。
でも何しろ相手は恋愛経験0の女の子。
やめておこう。
その代わり、いつか、そう遠くない未来に、いっぱい鳴かせてやるからな。
覚悟しとけよ、純怜。