君色のソナチネ



ーーーーー教会。



「これ、楽譜です。
今日は、よろしくお願いします。」



私が中央後ろの方の椅子に座ると、中学生くらいの女の子が、楽譜を持ってきてくれた。

この合唱団のリーダーさんかな?



「はい、手助けになれるか分かりませんが、聴かせていただきますね。
よろしくお願いします。」

私がそう言うと、にこっと笑って、ひな壇に戻っていく。



「ほら、みんなも挨拶しようね。
よろしくお願いします。」

……………「よろしくお願いしますっ‼︎」……………




わぁーお。
挨拶もハーモニーつくってするんだ。

小さな子から大きな子まで、綺麗に整列していて、その子供達からつくりだされるハーモニー。

すごい。

ここまでだったんだー…。

…どうするかな…。

私、遊び感覚できてしまったんだけどなー。

ここまで真剣にお願いされるなんて思ってなかったし。





でも、これは私も真剣にならないといけない気がしてきた。

小さな才能に触れれるいい機会。

私の方も、なにかいい発見があるかもだし。




「じゃあ、まず通すからな。」


ーー-ー ♪~♫〜♪~



奏の指揮に導かれるように、澄みきった声が遠くの方から聞こえてくる。

まるで、光がさすこの教会に天使が舞い降りてくるかのよう。



「…なつ…かしい。」


!!


まただ。

この感覚。

私、この曲知らないよ?

楽譜を開いて見てみても、こんな譜面見たことないし。

私は一回演奏したことのある曲や、聴いたことのある曲、見たことのある楽譜は絶対に忘れない。

だから、この曲、今までに演奏したことも、聴いたことも、見たこともないっていいきれる。






…なのに、なんで?





この前、初めてこの教会に来たときにも、同じような懐かしさ感じたんだよね…。

この教会にそんな作用かなにかがあるの?

うん、そういうこと…だよね?



そういう事にして、今はこの子たちの合唱に集中しなきゃ。

お願いされて、OKしたんだから。

変なこと言って、この子たちの才能を潰すなんてこと、絶対にしちゃいけない。




それにしても、上手だよな〜。

みんなの声がうまく調和していて。
でも、上級生のソロの部分では、その子の個性がまたこの曲に味を出していて。

聴いている私を引き込むだけの感性をこの子達は持ち合わせている。

それに、感性だけじゃない。

ちゃんと音楽もわかってるよね…これ?

…すごすぎない?

小さい子は小さい子なりに。

大きい子は大きい子なりに、ちゃんとわかって歌ってる。

うーん、私でも難しいんですけど…?

これは、奏がしっかり教えてる証拠だね。

ちゃんとやってんじゃん、奏。

ちょっと意外だった。

あのぶっきらぼうな奴が、子供達相手にしっかり向き合うなんて。

「子供、嫌いじゃないんだ…。」






終結部。
ふっ、と消えていった声。
天使がまた天に昇っていったみたい。

あぁ〜、私の魂までもっていかないで〜〜‼︎

危うく、この子達の合唱に完全に引き込まれてしまうとこだった。

完全に引き込まれちゃったら、冷静に評価なんてしてられない。

危なかったぁ〜。




「おい、すみれ〜‼︎
こっち来てどう思ったか教えてくれないか〜?」

奏が手招きしてる。

ぷっ。

私にお願いするなんて。

本当に、真剣に教えてるんだね。

じゃあ、私も、厳しく評価させてもらうよ?





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