君色のソナチネ
「え、奏の知り合いの方?」
「あぁ。
沢田 元[sawada hajime]さん。
まだ俺が漢字読めなかった頃、誤って''はじめ''を、''げん''と呼んでから、ずっとげんさんって呼ばせてもらっている。
親父の昔からの友人だ。」
「そうだったんだ。
初めまして、沢田さん。
水城純怜と言います。」
「初めまして、純怜ちゃん。
君の事は、伺ってるよ。
いいお嬢さんだって。
確かに、奏にはもったいねぇくらいのべっぴんさんだ。」
「は?誰に。」
って聞いたのは、私じゃなくて、隣にいた奏。
「謙二にだよ。」
「…あのクソじじい。」
「あ、あのう…」
話についていけなくて、奏の顔を見るけれど、お前は知らなくていいなんて言われた。
いや、ねぇ。
知らないところで、いいお嬢さんなんて言われたら…。
「謙二は、こいつの父親だよ。
お前、純怜ちゃんに自分の父親の名前も教えてなかったのか?」
そう思ってたら、元さんが教えてくれた。
「は、初めて知りました。」
奏のお父さん、謙二さんって言うんだ!
奏がこんなだから、きっと奏のお父さんもかっこいいんだろうなぁ。
あれ?
でもなんであった事もないのに、奏のお父さん私のこと知ってるんだろう。
「奏が謙二に、純怜ちゃんの自慢ばかりしてるんだよ。」
そ、それってホントに?
て、照れる…。
「ちょっ、げんさん、やめろよ。
そんなんじゃねぇし。
ただ、紹介しろって煩いから、名前だけ国際電話で言っただけだ。」
「いつも無口なお前が詳しくペラペラ説明すると、嘘っぽいからやめたほうがいいぞ。」
その元さんの言葉に、黙り込む奏。
平然を装ってるんだろうけど…
「ぷっ。あははははっ‼︎」
「お前なんで笑ってんだよ。」
「だって、口とんがってて、あははは、子供みたいなんだもん、あははは。」
「純怜、いい加減にs」
「それに、''はじめ''って読めなかったんでしょ?だっさっ!子供じゃん‼︎あはははっ‼︎」
「そりゃそうだろ、何歳だったと思ってんだ。」
あ、やばっ。
本気で怒っちゃった?
だって、嬉しかったんだもん。
ここに来てから、子供の頃の奏を見てるみたいで、奏の新しい面一杯知れて。
「お前もまだまだだな、奏。
ヨーロッパに行ってから少しは丸くなることを期待してたんだが。」
げんさんが試す様に奏の顔を覗く。
「ほっとけ。」
あーあ、怒っちゃった。
でも、そんな奏も好き。
「じゃあ、純怜ちゃん、こんなすぐに怒る奏なんかおいて、先に行っちゃおうか。
軽トラのって。
奏は後ろから走ってこい。」
えぇーーーー!
「あ、それと純怜ちゃん、奏と同じ様に、げんさんって呼んでくれて構わないから。
ささ、乗って乗って。」
わわわ、勢いがっ。
遠慮なくげんさんと呼ばせていただきます。
ってか、げんさん絶対冗談でいったのに、奏のやつムキになってるし。
もう。
いつも冷静な俺様王子様は、たまにムキになるとかなり強情になるのでした。
ちょっと照れるけどしかたないな。
げんさんが軽トラに乗ったのを確認して、奏の肩に手を置き、耳元に口を寄せて。
さぁ、いつもの冷静な俺様王子様に戻っておいで。
「怒ってちょっとムキになってる子供っぽい奏も、大、大、大好きだよ。」
そういって、奏の顔を覗きこんで、これ以上できないってくらいの笑顔をみせる。
一瞬驚いたような表情になった奏。
でもすぐに、私の手をとって、ぎゅっと握って、
「俺も。」
そう言ってくれた。
「はやく乗れーっ!
おいてくぞーーっ!」
げんさんの声に、ハッとして、急いで乗り込んだ私達。
なんだ、奏お前も乗るのか。
そんなこと言うげんさんだけど、どこか楽しそう。
「この辺は、バスが2時間に一本しか通ってないんだよなー。
すまねぇな、尻痛くねぇか?
この軽トラ、ボロくてよ。」
「げんさん、純怜にセクハラすんな。」
「おま、尻痛くねぇか?って聞いたぐらいでセクハラになってたまるかっ!」
そんな二人の会話に笑っていると、あっという間に時間はすぎていったーーーーー