君色のソナチネ
どうしたらいいの、これ?
こんなの初めてなんだけど…。
「そういう事であれば、喜んでサイン、させてください。」
戸惑っている私をよそに、奏は、色紙とペンを受け取って、スラスラとサインしてる。
あー、こういうの慣れてるんだなぁ。
なんだか羨ましかったり、妬ましかったり、いろんな感情がでてきた。
でも、やっぱり快くサインしてる彼の横顔は、カッコよくって。
きっと、子供達を思って書いてるんだろうな。
そう思わずにはいられない程の、暖かな笑顔。
あぁ、私、この人が彼氏で本当によかったなぁって、心から思うよ。
「お前、サインできるか?」
耳元で、店員さんに聞こえないように耳打ちしてくる。
…一応、気遣ってくれてるんだろうけど…。
ごめん、さっきの撤回。
失礼なヤツ!!!
「サインくらい考えてるよっ!」
私だって、中学の頃、自分がもしも有名なピアニストになって、サインを求められたらっていう妄想、したんだからねっ!
サインくらい、考えて夢見てるし!
奏から、色紙とペンを奪い取って、奏のサインの隣に、私のサインを書く。
''ピアノ、頑張ってね!''
コメントも添えて。
「この楽器店が、私のサイン、第一号です。」
サインを求められるって、こんなに嬉しいことないね。
ピアノの上から、1枚の色紙に並んだ2人のサインが、これからの2人の未来を暖かく見守っていたーーーーー