君色のソナチネ




どうしたらいいの、これ?

こんなの初めてなんだけど…。





「そういう事であれば、喜んでサイン、させてください。」




戸惑っている私をよそに、奏は、色紙とペンを受け取って、スラスラとサインしてる。

あー、こういうの慣れてるんだなぁ。

なんだか羨ましかったり、妬ましかったり、いろんな感情がでてきた。

でも、やっぱり快くサインしてる彼の横顔は、カッコよくって。

きっと、子供達を思って書いてるんだろうな。

そう思わずにはいられない程の、暖かな笑顔。

あぁ、私、この人が彼氏で本当によかったなぁって、心から思うよ。





「お前、サインできるか?」




耳元で、店員さんに聞こえないように耳打ちしてくる。

…一応、気遣ってくれてるんだろうけど…。




ごめん、さっきの撤回。




失礼なヤツ!!!




「サインくらい考えてるよっ!」




私だって、中学の頃、自分がもしも有名なピアニストになって、サインを求められたらっていう妄想、したんだからねっ!

サインくらい、考えて夢見てるし!




奏から、色紙とペンを奪い取って、奏のサインの隣に、私のサインを書く。

''ピアノ、頑張ってね!''

コメントも添えて。




「この楽器店が、私のサイン、第一号です。」



サインを求められるって、こんなに嬉しいことないね。




ピアノの上から、1枚の色紙に並んだ2人のサインが、これからの2人の未来を暖かく見守っていたーーーーー






< 214 / 278 >

この作品をシェア

pagetop