君色のソナチネ
ー奏sideー
「悪い、言いすぎた。
今から休憩にするから、外で遊んで来い。
大事な時期だから怪我すんなよ。
お前ら1人1人が、この合唱団には必要なんだからな。」
輝くこいつらの笑顔。
はぁ、何やってんだ俺は…。
合唱でこんな笑顔引きだせねぇでなにが先生だ。
これじゃあ先生面してるただの高校生じゃねぇか。
また考え方改めねぇとな。
純怜からも怒られるだろう。
まぁ今回は大人しく怒られよう。
仕方ない。
俺が悪かったから。
そう思いながら純怜がいつも座ってる席の方を向く。
「純怜…?」
しかし、そこには彼女の姿がない。
「先生ー!純怜ちゃんがーーーっ!!」
そのとき、教会の扉に向かっていた子供たちが、純怜の特等席らへんで立ち止まって俺に向かって叫んできた。
まさか、な…?
嫌な予感が脳内を駆け巡る。
と同時に足早にそこへ向かう。
「おいっ、すみれっ!」
横たわって苦しそうに息をしている彼女の顔は真っ青で、意識もはっきりしていない。
過呼吸か…?
俺の顔を見ると、なにか呟き、微かな笑顔を見せる。
おいおい、お前笑顔見せる余裕もないくせに、笑うな。
「いいか、大丈夫だからな。
とりあえずこれ被ってゆっくり息しろ。」
冷静に声をかけながら、着ていた学ランを脱ぎ、純怜に被せる。
それでも落ち着かない純怜の息。
くそ、間に合わねぇ。
強引だが、するしかねぇな。
だが、さすがにこいつらの前でするわけにはいかねぇ。
心配そうな顔をする小学生。
「さぁ、みんな。
純怜お姉さんには奏先生がついてるから、もう安心。
お外、遊びに行こうっ!」
桜が気を利かせて外へ連れて行ってくれる。
さすが、リーダーだな。
「桜、さんきゅ。」
「いいえ、それより純怜さんをっ!」
「あぁ、分かってる。
おい、晴矢、神父さま呼んできてくれ!
あと、備蓄してある毛布二枚と水、持ってきてくれ。」
雛壇で楽譜を見ていた晴矢に声をかけると、すぐに状況を察したのか、動いてくれる。
この中3の2人には、なにかと感謝している。
俺の腕の中で、胸を押さえる彼女。
「純怜、すぐに楽になるから。」
苦しそうに息をする純怜の口を俺のそれで塞ぐ。
次第に穏やかになる純怜。
固まった指先の力も抜け、顔色も良くなったのを確認して、離す。
眠っているのか、まだ反応がない中、純怜の頬に流れる一筋の涙。
「お前、大丈夫かよ…。」
純怜が倒れるたびに胸が張り裂けそうになる。
「奏君、大丈夫ですか?」
晴矢に呼ばれた神父さんが、かけよってくる。
その後ろから、晴矢から、毛布とペットボトルを受け取る。
「はい、なんとか落ち着いたみたいです。」
純怜を毛布で包みながら答える。
「良かったです。
また繰り返すかもしれませんので、純怜さんには、私がついておきます。
奏君は、子供達の指導に専念して下さい。」
「ありがとうございます。
よろしくお願いします。」
心配で離れたくはないが、しょうがない。
神父さんが付いていてくれるというから安心だろう。
腰を上げ、純怜の心配をしているであろう子供達に無事を伝えるため、教会の外へ向かった。ーーーーー