君色のソナチネ





ーーーーー

ーー



「…ばあちゃん?」



目の前にいるばあちゃん。

ばあちゃんの後ろには見慣れた天井。

ここは…私の部屋?

ベッド?



「すみれちゃん、うなされてたわ。
それに涙まで流して…。
…大丈夫?」



頭が働かずにぼーっとしている私に、ばあちゃんが心配そうに声をかけてくれる。

…私、涙流してたんだ…。



「なんだか怖い夢見てたみたい。
どんな夢だったか、覚えてないのに、まだ怖くて。

でも、高校生にもなって、夢見て涙まで流すなんて、私ってば子供みたい。」




そんなことを言う私に、ばあちゃんは''そんなことないわ''といいながら、抱き寄せてくれた。


こうやってばあちゃんに抱き寄せてもらうの、久し振りだなぁ。


小学生の頃は、よくこうしてもらってた。


ばあちゃんに抱き寄せてもらうと、凄く安心できて、不安ごとや悩みも和らいだんだよね。


今も、こうしてばあちゃんのおかげで安心することができてるし、やっぱりばあちゃんのパワーはすごいや。




「すみれちゃん、少しは落ち着いた?」



「うん、ありがとう、ばあちゃん。

それと…、」



「なあに?」



私、確か教会にいたはずなんだけどな…。



「すみれちゃん、神峰くんが抱えてきてくれたのよ。

''純怜さんが過呼吸になったのですが、今は落ち着いています。
眠っていて起こすのは気が引けたのでそのまま連れてきました。''

っていってね。

私からもお礼しといたけれど、すみれちゃんからも週明け、ちゃんとお礼しとくのよ。」


そっか、奏が運んでくれたんだ…。


「うん、分かった。」


よかった。


倒れた後、奏に会わなくてすんだことに、何故かほっとしてしまう。


今は奏の顔を見るといろんな感情が重なって泣き出しそうだから。




得体の知れない言葉の怖さに、奏にすがりつきたくなる。

''安心しろ、大丈夫だから。''っていって、ギュッと抱きしめて欲しい。

でも、奏の顔を見るのが怖い。
あの言葉が余計によぎりそうで。




矛盾する想いに、頭がおかしくなりそうになったとき、


「すみれちゃん、今日はばあちゃんと一緒に寝ちゃう?」


その言葉とともに、ばあちゃんの優しい笑顔があって。

言葉にあまえて、一階におりて、何年ぶりかに、ばあちゃんと同じ布団に入る。


「あなたはピアノ弾いてるから人より頭の回転が速いのでしょうね。その分、不安や悩みごとも膨らんでいくのよね。」



え?



「すみれちゃん、不安や悩みってね、自分が認識していない物に対しておこるものでしょ?

その物事をいろんな角度から想定して、考えてるからこそ、不安や悩みを抱えるの。

でも、そうすることによって、人間は、自分が認識していない物事の真実や現実を知ったときに、少しでも衝撃を軽くできるように、準備してるのよ。」


「うん。」


「不安や悩みを他の人より抱えてる人は、危機回避能力が、それだけ優れてるのかもしれないわね。」


''だから、不安や悩みが多いのは、悪いことじゃないのよ?''そういって、ニコッと笑うばあちゃん。


''でもね、''そう言って、続きを語ってくれる。


「行き過ぎると、自分をダメにしてしまうの。
人間の、おっちょこちょいなところよね。

不安や悩みは、想像の中のものだから、本当かどうかも分からない、危ういもの。

未来のことで不安や悩みを抱えてるのなら、それはやめる努力、しなくっちゃね?

だって、未来のことは、神様にしか分からないもの。

でも、もしも未来の事じゃないのなら、すみれちゃん以外の人に相談するのも、いいんじゃないかな?

すみれちゃんが、その物事を認識していなくても、他の人は、分かってるかもしれないでしょう?」


そっか、そうだよね。

…でも、他の人に相談して、もしも真実が分かったときの事を考えると、怖い。


「でも、真実や現実を知るのがまだ怖いのなら、自分の中で覚悟が決まるまで、とりあえず、置いとくってのはどうかしら?」


''悩み事も減るんじゃないかしら?''なんて言って、微笑むばあちゃん。


「ばあちゃんって、…エスパー?」


「すみれちゃんの事は、赤ん坊のときから可愛がってるの。分かって当然よ?」


「うん、ぐすん。ありがとう、ばあちゃん。」


こんなに知的な事を話すばあちゃん、初めてで最初は戸惑ったけど、でもそのばあちゃんの話は、今の私を不安や悩みから救ってくれたんだ。


「すみれちゃん、おやすみなさい。」


「おやすみ、ばあちゃん。」



その夜は、ばあちゃんの暖かさに触れて、久しぶりに熟睡できた私だった。







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