君色のソナチネ




ー純怜sideー




…え、何事?


一曲目を弾き終えて、曲の世界から意識を戻したところで観客が興奮している事に気がつく。


私、今コンクールで演奏してるんじゃなかったっけ?

うん、その筈。


普通コンクールでは、プログラムの終わりだけの拍手なのになぁ。


どうしようかなぁ。


止まない拍手に少し焦り始める。


二曲目があの曲なだけに、聴衆がこの状態ではまだまだ始められそうもない。


かといって、制限時間もある。


困ったな…。


そう思いながらも、客席の方へ笑顔を向けながら座ったまま軽く会釈をする。


これで落ち着いてくれ〜と願いながら。


そんな願いが届いたのか、1人、また1人、と我に返った人から着席していくのが目に入る。


観客の皆さんは、ある程度理解のある方々みたいで、我に返った人が周りの人を宥め、あっという間に静かに…とは言えないけれど、曲を弾き始められる程度にはなった。


本当は、ピーンと張り詰めた静寂の中で弾きだすのがこの曲の理想だと私の中では思ってたんだけど、そうも言ってられない。


ザワザワと興奮している観客が完全に静かになるのを待っていたら、時間に余裕をもって演奏できるように選曲したこのプログラムでも制限時間オーバーになって、それこそ点数をひかれてしまう。


ちょっと曲の解釈とイメージを捻ってみよう。


ザワザワした中、遠くの方から聴こえてくるエオリアンハープの音色。


うん、なんか面白そうじゃない?





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