君色のソナチネ
ー奏sideー
湧き出る静かで清らかな旋律が、観客のざわめきをも音楽芸術の一部へと取り込み、長雨の中の嵐へと変貌させる。
優美なエオリアンハープを思わせる音色が、雨天の窓際をほのかな灯りで照らす。
___作品25‐1
____『エオリアンハープ』
演奏する純怜はまるで、雨が打ち付ける窓際に座りエオリアンハープを奏でながらひとときを愛しむ女性のようで微かに儚い。
「…純怜…?」
その儚さが何故か今の彼女と重なって見えた。
奏でられている旋律は次第にしとやかさを増し、導かれるように雲が切れ、太陽の光が差し始める。
落ちる1滴の雫。
その重みを失い跳ね上がる1枚の緑葉。
太陽の光を浴びてキラキラ反射する小さな庭。
最後の2小節で繰り広げられる豊かな世界に驚かされずにはいられない。
本当にこいつはいつも息を思うようにさせてくれないんだよな。
いつも息を呑むような演奏をしてくる。
純怜のそういう所に、俺はたまに危機感に似た何かを感じ、同時に尊敬の念も抱く。
今までに何回か彼女の演奏を聴いてきて、気がついたことがある。
彼女の演奏は、生命力に満ち溢れ人々を震わせることができる。
しかし、なんというか、演奏している彼女自身からは生命力が感じられない。
演奏をしている時の純怜の中に何時もの純怜がいないように思う。
7色に色付く演奏をしている彼女の中は、無色か、あるいは無限に広がる純白か。
何かに突き動かされるようにピアノを完璧に弾く。
俺はこれから先も純怜の演奏を聴けるんだよな…?