君色のソナチネ
「純怜。」
「ん?」
放課後、学校からの帰り道、俺たちはいつも通り一緒に帰っている。
学校を出る時から黙っている純怜に、声をかける。
ここ最近の純怜の言動を見ていると、傷つきやすいのか、心を守るように彼女自身が気を付けているように感じる。
心ここに在らずなふうに、現実世界を避けているようにも見えたが、それに関して彼女は何も言わなかったから、俺も触れてはいなかった。
まさかといっていいのか、やっぱりと言うべきなのか、ピアノが原因だったことに、俺は少なからず不安を覚える。
それなら、ますますデリケートに扱わなければならない部分になるからだ。
「大丈夫か?」
「へ?」
予想外の事を言われたかのように顔を上げる彼女。
俺がズケズケと記憶が戻った云々聞くとでも思ったのだろうか。
それとも今日の演奏を批判されるかもしれないとでも思ったのだろうか。
「…気付いてるよね?」
「…。」
何のことか、彼女の目を見ていると、聞かずとも分かったが、さらりと答えていいものか悩む。
「ねえ、奏、気付いてるんでしょ?」
「…あぁ。」
「そっか、だよね。」
これで良かったのだろうか?
「練習付き合おうか、と言いたいところだが、たぶん純怜は遠慮するというか、拒否するだろうから、俺は最後まで見守るよ。うんと足掻いてこい。」
「…奏…。
戻った記憶の事、聞かないの?」
「まだお前話せる状況じゃねぇだろ。
待つよ。
ただし、きつくなったら倒れる前に俺に吐き出しにこい!
無理だけはするなよ。」
「…ありがとう。
たぶんだけど、このスランプは私自身が自分で乗り越えなきゃならない気がするの。」
「あぁ、俺もそう思うよ。
お前なら大丈夫。」
「うん。」
下を向いて目尻を拭おうとする純怜の手をとり、そのまま引き寄せしっかりと抱きしめる。
俺がいる事を忘れるな、そう言い聞かせながら。
静かに涙を流す純怜をしばらく抱きしめた後、涙に濡れた彼女の手をとり、いつも通る道を2人で歩いて行った。