君色のソナチネ
30分のプログラムの中盤。
ショパンのエチュード2曲、バッハの平均律1曲を終えたところだ。
やはり、その純怜の演奏は、今までよりも劣っていた。
質というより、気持ちの面がかなり影響しているのだろう。
何というか、あまりにも気持ちを無視した弾き方をしているような気がする。
もちろん、自分の気持ちを、曲中に出し過ぎるのは御法度だが、それを押し殺しすぎて、楽譜どおり、忠実に弾くだけでは''個性''というものが消えてしまう。
今の純怜の演奏はそんな演奏だった。
よく言えば完璧。
だが、どこか薄っぺらく聴こえてしまい、聴いている側からすると、面白くない演奏だ。
きっと、自分の気持ちを押し殺さなければ弾けないほど追い詰められているのだろう。
いつ出てくるかわからない、得体の知れない恐怖に怯えているかのように、その恐怖にのめり込まないように、自分の気持ちを押し殺しているふうにも見える。
…あと1曲。
予選、試験でも弾いていた、『月光』の全楽章。
お願いだ、最後まで持ってくれ。