君色のソナチネ
ー純怜sideー
『月光』
''スイスのルツェルン湖の月光の波に揺らぐ小舟のようだ。''
このソナタに、そう言葉を残したルシュタープ。
冒頭、右手で演奏されるのは嬰ハ短調の主和音を分散させたアルペジオ。
それは穏やかでどこか哀愁のただよう時間を醸し出し、終始流れを占拠する。
時を同じくして、冒頭、左手では嬰ハ音が打ち込まれる。
それはまるで真夜中、揺らめく湖面に滔々(とうとう)と映る月光のよう。
ベートーベン自身は、その曲への名付けをあまり良くは思っていなかったらしい。
それはきっと、先入観なしに曲へ向き合って貰いたかったのか、人それぞれの感じることを尊重したかったのかな…。
身分の差でかなわない恋。
恋心を隠しながらもいつも恋い焦がれ、我に戻り悲しみにくれている。
ある人はこの曲を聴いてそう感じるかもしれない。
またある人は、
何とも言えないような、悲しみ、嘆きに襲われながらも、嘆く気力すらない悲しい歌。
こう感じるかもしれない。
ベートーベンはそんな風に、人それぞれの感じ方を大切にしたのだと思う。
その人が考え抜いてどういう曲なのか、答えを導き出したのなら、それが正解なのだから、私は私なりのこのソナタ14番を弾こうと思う。