君色のソナチネ
ーー-♪
冒頭。
右手のアルペジオが瞬く間に世界を創りだす。
夜半。
雄大に森を広げ、
湖を静寂で包み込み、
かすかに冷たい風を吹かせる。
左手で打たれる全音符がその湖面に月を映し出し、森全体を不思議に照らし出す。
風に撫でられた湖面が揺らめき、月の姿をおびやかす。
低くて暗い、哀愁を帯びたその旋律。
この作品が作られ始めた時は、ベートーベンの難聴の兆候がではじめたときでもあった。
淡々と進むその旋律が、どこかベートーベンの気持ちを表しているようで、弾いていると胸をぎゅーっと締め付けられる。
中盤。
右手のアルペジオが動きを見せ始める。
上行と下降を繰り返し、若干の乱れを伴う。
我慢できない思いが上り詰めたけれど、出す事が出来ずにまた落ち着いて行く。
ふつふつとしたマグマが内側にあるのを感じながら再び歌われる旋律がさらに印象を濃くする。
最後に旋律が左に移る。
燻る思いをひた隠したまま、置かれる和音。
1回。
そしてまた1回。