君色のソナチネ
1つ
また1つ
私の指からこぼれ落ちてゆく音。
拾っても拾ってもこぼれ落ちてゆく音。
勝手に包み、守っていたくせに、こういう時に限って、純白の世界はぼろぼろ崩れていく。
崩れた所から覗くのは真っ黒で不気味な今までとは真逆の世界らしい。
''あぁ、もう無理なんだ。''
そう悟った瞬間、一生をかけて愛してきた音達も、私を勝手に匿っていた白い世界も、堰を切ったようにほろほろこぼれ落ち、はらはら剝がれ落ちてゆく。
ある意味の裏切り。
なんてあっけないんだろう。
鎮まりかえるホール。
冷たい汗が背中とこめかみを通ったのが分かる。
こういう時に限って嫌に冷静だ。
この状態でまた弾きだすのは不可能。
そう判断し、椅子から立ち上がる。
ピアノの前で軽くお辞儀をして舞台袖に戻る。
目の前が眩み吐き気に襲われる。
はいはい、また気を失いますか。
本当情けない。
弾けなかった上に舞台袖で倒れるなんてみっともない事出来るわけがない。
そう思いながらトイレに駆け込んだ。