君色のソナチネ
救急隊員の方が忙しく連絡を取り合いながら、純怜のおばあさんにいくつかの質問をしている。
表面上では落ち着きを取り戻したようで、淡々と答える純怜のおばあさん。
その手は震えていた。
しばらくして搬送先が決まったのか、救急車が走り出す。
俺の手も震えている。
いったい何があったのか。
そう思った時、純怜のおばあさんが話し出した。
「4日前のコンクール、純怜ちゃん先に帰ってたのよ。
部屋に鍵をかけたままそのまま出てこなかったの。
声をかけても返事がなくて、おじいさんも心配してたんだけど、仕事で出張にいってしまったわ。
1日2日たったら出てくるだろうと思ってたんだけど、4日たった今日もでてこなくて、ご飯もお水も口にしてなかったから、私はだんだん焦ってきてね。
マスターキーなんてうちには無いから、工具箱に入ってた中で、使えるもの使って鍵をこじ開けたの。
その間も物音1つもなくて、焦りながら扉を開けると、純怜ちゃんがピアノに突っ伏していたのよ。
体がすごく熱くて、息が早くて、意識がはっきりしてなかったから、気が動転して救急車を呼んだのよ。」
「そうだったんですか。」
「私が悪いのよ、もっと早く行動していればこんなに純怜ちゃんが苦しむことなかったのに…。
今まで純怜ちゃん、こんなふうになった事なかったから、どうしていいか分からなかったのよ。
ごめんね、ごめん。」
そう言いながら血の気のひいた純怜の手を握りしめるおばあさん。
「純怜は、記事をみてはいませんか?」
「ええ、それは無いわ。
全て処分したもの。
部屋のカーテンは閉まっていたし、ヘッドホンをつけていたから、家に訪ねてくる記者にも気がついてないと思うわ。」
「そうですか。」
それから病院に運ばれるまでの間、一言も言葉を交わすことが出来なかった。