君色のソナチネ
ー奏sideー
「熱を下げる為の点滴と、栄養剤、それと精神安定剤を投与しています。」
解熱剤と栄養剤は分かる。
何で精神安定剤なんだ?
そう思ったことが分かったのか、医者がまた口を開く。
「君は、水姫さんの恋人かい?」
「は?
は、はい、まぁそうですけど…?」
「それなら、これからこれまで以上に水姫さんに気遣ってあげてほしいんだ。」
「どういう事ですか?」
「体調のほうは、点滴で今日にも良くなると思うが、心の方に少し問題が起きてるようでね、鬱の症状が少しでているみたいなんだ。」
「う、つ、ですか…?」
「あぁ、うつ病とはっきり言えるほど酷くはないから、君が気に病む事はないが、これからの生活の仕方でこのまま病気になってしまうのか、改善していくのか大きく変わってくる。」
「…。」
「強い刺激を避けて、彼女が穏やかに生活出来るように、一緒にいる時間が長いと思われる君にも、手伝ってほしいと思って話しているんだよ。」
「…はい。
分かっています。
最善を尽くします。」
「まぁでも、若いから、刺激がなさすぎるのも逆にだめなんだよなぁ。
そういう事に関しては、君はとくいそうだからね。頼んだよ。」
含みを持った穏やかな笑顔で頼まれる。
そういう事って何なんだよ。
「ピアノに関してもだけれど、恋に関しても…ね?」
なんだこの医者。
「失礼ですが、本当に医者ですか?」
「ははは、君は面白いな。
安心したまえ、腕の立つ医者で有名だよ。」
自分で言うのかよ。
そう思うと、笑えた。
そうか、俺の緊張を…。
「先生、純怜をお願いします。」
「あぁ、任せときなさい。」
俺の肩にぽんと手を乗せて病室をでていく医者。
「もう少しで気がつくと先生がおっしゃっています。そのときはナースコールで呼んでください。」
看護士もそういって病室から出て行った。
静まり返る病室。
ベットに横になる純怜の顔色は、さっきよりもだいぶ良くなっていた。
純怜が起きた時、安心しすぎて興奮しそうになったが、冷静を保つ。
いたって普通にしている純怜。
繋がれている点滴をみて、心が締め付けられた。
そんな俺を心配していたらしく、自分の方が体調が悪いくせに、気遣ってくる。
そんな純怜をみていると、自然に笑顔が戻っていた。
俺がしっかりしなければな。
そう思い、寝ている純怜の手をぎゅっと握った後、病院を後にした。