君色のソナチネ
そうか、そうだったのか、
なんとなく、何故彼女があんなに大きな悲しみを持っているのかが分かったきがする。
ただ、
「純怜のおばあさん、怜子さんは、厳しいだけではなかったと思いますよ。」
「いや、あの子は本当に厳しくしてたわ。それはもう、本当に。」
「では、何故、記憶を失ったはずの彼女はまたピアノを弾いているのですか?何故、彼女の演奏が、人の心をうつのですか?
怜子さんはただ厳しくするだけではなかったと思います。
音楽が、どれだけ素晴らしいのか、どれだけ尊いのか。
クラシック音楽が、400年も受け継がれてきた意味、作曲家達がクラシックに人生を捧げた意味。
そんな作曲家達がつくった、たくさんの作品を自分がひくことの意味。そして、そんな作曲家へ、敬意を払いながら、楽譜を読み込むこと。
音楽は人を癒すことができる、
でも、時に、それが凶器にもなるということ。
そんな音楽と、どう向き合っていくのか。
怜子さんは、純怜に全身全霊で教えていたのではないですか。だから、厳しくもなった。でも、そこには、暖かな、大きな愛があったはずです。
でなければ、あんな音は出せません。
でなければ、聴いている人々の心をつかむことなんて、できません。
自分が誰のために、何のために、弾いているのかはっきりしているからこそ、弾けるのです。
それは、才能だけではどうにもなりません。
どんなに練習しても、
どんなに厳しくレッスンをしても、
どうにもなりません。
怜子さんがいて、練習に限らず、いろいろなことを教えていたからこそ、記憶がなくなっても、純怜は弾いていけるのではないでしょうか。」
おばあさんは、泣いていた。
自分を恨んでいたといっていたけれど、少しは軽くなっただろうか。
「おばあさん、怜子さんが、純怜を膝の上に抱いていた時によく弾いていた曲、教えて頂けますか。」