君色のソナチネ
しばらくの間、おばあさんは涙をすすったあと、静かに口を開いた。
「ブラームス。
6つの小品より間奏曲 、作品118-2、イ長調。
Andante teneramente。
今、思い出したわ。あの子、純怜に聴かせている時が、1番暖かくて、愛がこもっていて、幸せそうだったわ。
コンクールの前の日も、いつものように聴かせていたわね。」
「おばあさん、ありがとうございました。」
「お礼をいわなければならないのは、私の方よ。奏君、本当に、ありがとうね。
今から、純怜ちゃんのところへいくんでしょ?
もし、あの子の記憶が戻ることがあったら、これを、渡して頂戴。」
手紙か…。
「…、分かりました。記憶が戻ったときには、渡しておきます。」
そう告げて、俺は純怜の家を飛び出した。