君色のソナチネ
最終楽章
amoreー愛ー
ー純怜sideー
–––––––音が聞こえてきた。
その音は私の心の中にある何重にも重なった頑丈な壁を物ともせずいとも簡単に通り抜ける。
優しく、優しく私の心に語りかける。
これって…
…お…かあ…さ…ん…?
溢れる涙。
蘇るあの時の記憶。
–––––『やだぁ。お母さん、いかないでっ!』
『純怜、よく聞きなさい。
お母さんはね、純怜のことが大好きだよ。
これからも、ずっと、純怜のそばにいるからね。
ずっと、あなたを見守っているわ。
あなたはきっと大丈夫。
どんなに辛いことがあっても、あなたにはピアノがあるから、強く生きていける。
今まで、純怜には、辛い思いを沢山させてきたけれど、それもあなたの為だったの。
今日もいろいろ言ったけれど、もう充分、一人前のピアニストなのよ。
だから自信をもちなさい。
純怜、笑って。
辛い時こそ、笑って。』
お母さんは優しく、優しく、私を包み込むかのような笑顔で笑ったんだ。
『純怜の結婚式、見たかったわ。』
そういって息を引き取ったお母さん。
なんで今まで忘れていたんだろう。
とってもとっても大事なこと。
その時は、お母さんの言っている意味が分からなくて、容量オーバーになって、記憶をなくしたんだ。
でも今は分かる。
お母さんの大きな大きな愛を感じれる。
お母さんは、私が大きくなっても、ピアノで生活していけるように、音楽の全てを教えていたんだ。
私がお母さんの子供だからこそ、甘えさせてあげたい気持ちを押し込めながら、厳しくしてくれたんだ。
その時の私は、子供で、お母さんのことを''怖い''としか思ってなかったけれど、お母さんはこんなにもおおきな愛をもって、私を育ててくれたんだ。
だって、この曲。
いつもこの場所で弾いてくれた。
この教会の、あのピアノ。
膝の上に座らせてくれて。
鮮明に蘇る。
愛情たっぷりの心のこもったブラームス。
今でも私の心はこんなにもあったかくなる。
今だからこそ感じる、お母さんの愛。
あぁ、そうか。
だから、神様は私の記憶を今まで封印させてたんだ。
私がお母さんの愛が分かるくらい、年をとるまで。
それまで、何の障害もなくピアノに向かえるように。
やっと心から、ピアノを弾くことができる気がする。
本当の自分が奏でる音楽がどんなものなのか初めて知ることができる気がする。
パワーアップしてるといいな。
神様。
私の記憶、預かってくれてありがとう。
そして、今返してくれてありがとう。
最高のプレゼントになりました。
そんな神様の期待を裏切らないように、私は、ピアノをこれからも弾き続けます。
世界中の平和を祈り、使命をもって一生ピアノを弾き続けます。
1人でも多くの人が私のピアノを聴いている間だけでも幸せになれるようにーーーーー
ーーーーー''愛''を込めて。