君色のソナチネ
君色のソナチネ



ー奏sideー



あの時から時は過ぎ、桜の蕾がパンパンに膨らみ、今にも咲きそうな季節がやって来た。


俺、正しくは俺と純怜は今あの教会にいる。


俺が日本に帰ってきてから定期的に開いている演奏会。


普段は東京とか、大阪とか毎回どこかのホールを借りてやっているんだが、今回は地元のこの教会でやる事にした。


ーーパチパチパチッ

ーーブラボー っ


俺の全ての演奏が終わる。


さて、と、


久しぶりで緊張してるであろう彼女の元へ行きますか。


そう思い、歓声の中、控え室へと戻る。


今回の演奏会を地元で開いた理由ーー



ーーそれは、紛れもなく、彼女の復帰演奏会を彼女の地元でする為だ。


復帰演奏の為、純怜はまだ一曲しか弾かないが、それでも彼女の演奏を心待ちにしていた地元の人で教会は入り口の方まで立ち見でいっぱいになっている。


「純怜。」


水色のドレスに身を包み、白いハンカチを手に持ち座っている彼女に声をかけると、緊張しながらも、にこりと笑う。


彼女が復帰するのに選んだ曲は、ラヴェルのソナチネ。


それは一流のピアニストが弾くような技巧的にも難易度の高い曲。


俺は1度反対したんだが…まぁ彼女がその反対を聞き入れるはずもない。


彼女の手元に目をやると、震えているのが分かる。


「だからいっただろ、もう少し安心できる曲にしたらどうかと。」


「緊張なんてしてないもん。」


俺がそう言うと、睨みながら行ってくる純怜。


まぁ、それもそうか。


そう思い、彼女の手を掴んで引っ張り腕の中へと引き寄せる。


「お前なら大丈夫だ。
純怜の本当の音楽を聴いてもらってこい。
純怜の音楽が、何色なのか、俺も楽しみにしている。」


そう言って、彼女の背中を押した。


やっとこの時が来た。


彼女の音楽を聴ける時がーーーーー



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