君色のソナチネ
舞台の中央で止まると、客席の方を向く。
慌てて席に座っている華菜が目に入る。
「クスっ」
華菜が慌てている姿なんて滅多に見られないから、自然と笑みがこぼれた。
いつも礼をする前は、つくり笑い。
何回舞台を経験しても、緊張はするんだ。
でも、何回も舞台を経験する内に、舞台上での振る舞いは上手くなったと自分でも思う。
舞台上で自然と笑みが漏れたのは、そういえば、初めての経験。
それだけ、余裕が出てきた証拠かな。
笑みを保ったまま腰から頭を下げてお辞儀をすると、視界に入ってくるあいつ。
ゲッよりによってなんで1番前の席なんだよ。
みんなのところで座って聴けばいいのに。
子供かっ、音楽やってる人間が普通しないだろ。
しかも、ニヤリと笑ってるし。
何考えてんのよ。
頭を上げながら奴を睨む。
完全に頭を上げると、いつも通りのつくった笑みを顔に貼り付ける。