君色のソナチネ
ー奏sideー
転校してきて間もない奴に実行委員なんてやらせるか?
「くそっ、弦の奴。」
推薦しやがって。
新矢はいつものように黙ってやがる。
クラスの奴らも全員賛成。
めんどくせぇ。やるしかねぇじゃねぇか。
「やる。」
一言だけいうと、拍手がおこる。
もうすっかり俺の敬語も抜けてしまった。
「じゃあ、女子の実行委員決めるぞ。」
担任からHRの進行を引き継ぐ。
「女子の中でやりたい奴は?」
「「「「「…。」」」」」
…だよな。
普通、やらねぇよな。
まして、このクラスの奴らはそれぞれの分野で、日本では1位2位を争うような奴ら。
命をかけてでも練習時間を確保しようとする。
「…先生、もう音楽科は文化祭参加しなくてよくないですか?」
「それがだめなんだよ。俺もめんどくせぇんだがな。」
だよな。
ふぅ、これは決めるのに骨がおれるぞ。
「じゃあ、誰か推薦したいやついるか?」
取り敢えず聞いておくか。
たぶん、これも無理だろうが。
皆同じ立場の人間だから、お互いに練習時間が欲しいのは痛いほど分かる。
このクラスの奴らは皆いい奴だから、推薦なんてできないだろうな。
まぁ、俺は弦のいつものノリで推薦されたけど。
…そう思っていたんだが、
「「「「純怜がいい‼︎」」」」
女子の満場一致のきれいなハモり。
…あいつが可哀想に思えてきた。
いや、押し付けなんかで純怜にした訳ではないと思うんだがな。
あいつはあんなんだが、本当にみんなに信頼されているみたいだ。
「おぉー、すげぇー、ハモった。
しかも、四人で。」
「弦、感動するなら自分の心の中か、他でやってくれ。」
そういうと、弦の隣で笑っている新矢。不思議な奴だ。
まぁ、いい。
「純怜、お前はいいか?」
…
「「「「…きゃーっ‼︎」」」」
「なんでなんでっ!
なんで奏様が純怜のこと、名前で呼んでるのよー‼︎どんな関係〜‼︎」
「ちょっと、気持ちは分かるけど篤実、落ち着いて。」
白井を富谷が宥めている。
ん?俺今あいつのこと名前で呼んだのか?
たしか今まで、あいつの前でしか名前で呼ぶなんて事、したことなかったよな。
…あぁ、たぶん、あれだな。
「お前ら4人がきれいにハモったおかげで、それが印象に残って、純怜って口が滑っただけだ。勘違いするな。」
「っきゃー‼︎また純怜って呼んだー‼︎」
いや、今のは違うだろ。
「で、お前はいいのか、水姫?」
それ以上のやり取りがめんどくさくなった俺は、当の本人に目をやる。
水姫って呼ぶことの方が違和感を感じ始めた事に俺自身も驚く。
「…コクっ。」
無言で頷く純怜。
なんか妙に静かだな。
いつもなら、女子の四人がハモった時点で、なんで私がやらなきゃならないのよ!なんて叫んでいそうなんだが。
…そういえば、白井がどんな関係だと聞いてきたときに、なにも反論しなかったよな。
体調でも悪いのか。
頭が働いていないみたいだし、取り敢えず、保留にしたほうが良さそうだ。
「また明日のHRで聞くから、決めとけ。」
そういって、俺は実行委員決めを終わらせた。