君色のソナチネ











…あれから3ヶ月ほどたった今日。
何故私は神峰に抱きしめられて、キスを迫られているのだろう。


勿論、フリだけど、何度やっても慣れない。


いや、慣れたくもないし、第一、私は今でもこの役に納得がいってない。


そして、何よりも、こんな脚本を書いた神峰に引いてしまう。というか、信じられない。


だって、あの神峰がよ?
なんでこんなシーンを書いちゃうわけ?
あいつの頭の中にも、こんなラブ要素が入ってたわけ?
いや、確かにあの時みんな、恋愛も絡ませて欲しいっていったよ?けどさ…


「カットー‼︎」


余計なことを考えているのが分かったのか、あっちゃんの声が飛ぶ。

今、ホールでミュージカルの練習中。

毎日、クラスごとに練習できる時間が振り分けてあって、短い時間の中でやってるんだ。



「ちょっと、二人とも、余計なこと考えてないで、真剣に演じなさいよ、真剣に。

何で、幸せな場面で、二人とも嫌そうな顔してるのよ!

もう春休みも後半!

本番迫ってるんだよ!

ピアノと一緒って思ってよ!舞台よ、舞台。」




いやいやいやいや、




「「ピアノと一緒にしないでよ(すんな)。」」



「何で役を演じていないときのほうが、息ぴったりなのよ…。」



「「ぴったりじゃないし(ねえよ)。」」



…「「はぁー…。」」…



いやいや、クラスのみんなに溜息つかれてもですね。



「とりあえず、ホール使える時間終わったから、今から30分休憩ね。

30分後、教室で。」



あっちゃんがそう言ってから、みんな休憩に入る。



ん?



「ってか、なんで脚本書いたあんたまで嫌そうにしてんのよ!

じゃあ、最初から書くな!」



「は?何言ってんだお前。」



何って、柄でもないことを書くなっていってんだよ、バーカ。




「…純怜、脚本書いたの私だよ?」


ん?

どういうこと?

あっちゃんが書いたの?



「そういえば、あの時、純怜はインフルエンザで休んでたかしら?」



華菜がそんな事をいう。



私がインフルエンザで休んだ時?

それって、相当前なんですけど。



「実行委員の純怜がいない時に、大事な主役を決めるのはどうかなと思ったけれど、あんたインフルだったから、一週間くらい休んだでしょ。

主役決めないと何も始まらないってことで、仕方なく主役の2人を決めた時、神峰君と純怜がいいって、クラスみんなの意見がすぐに一致したのよ。

でも、神峰君は、演出も脚本もやって大変だってことで、作詞と台詞をゆきちゃんだけに任せて、あっちゃんに演出と脚本をお願いしたのよ。」



えぇー。

そうだったの?

今の今まで知らなかった。

ってか教えてくれてもよくない?


だから、こんなに神峰が書いたとは思えない作品になってたのか。

うん、なんか納得。

でも、神峰が主役を引き受けたのは意外だ。


「純怜お前、今まで、俺がこの作品書いたと思ってたのか?」


「うん。」


「冗談はやめてくれ。

こんな気持ち悪いシーンなんて書くか。

自分でも引く。」


それはあっちゃんに失礼だよ。


「気持ち悪いってあんたね。

確かにあんたが書いたら気持ち悪いけど、あっちゃんが書いたんなら納得だわ。

むしろ、感動するんじゃない?」


「だよね?純怜!
感動するでしょ?
よかった!

じゃあ、純怜、このシーン完璧に演じてね!」


「いや、それとこれとは別だよ。」


もう、純怜〜!なんて言って、ちょっと怒り出すあっちゃん。


「だいたいなんで、私を主役にしたのさ!」


「みんなが純怜がいいって押してくれたのよ、そんなこと言わないの。

みんなの為にも頑張ってよ、純怜。」


華菜にそんな事を言われたら、無理って言えないじゃん。

だけどさ…、


「う〜ん。

できるだけ、頑張るけど、やっぱり無理なもんは無理だもん。」


みんなには迷惑かけるかもだけど、頑張るから、分かってよ。

目で訴える。


「純怜がやれるだけやって、それでもしできなくても、みんなは責めたりしないからさ、安心して頑張りなよ。」


そう言ってくれる、華菜。


頑張るしかないから、頑張るけど…。






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