君色のソナチネ
ー奏sideー
クラスのミュージカルの内容が恋愛を混ぜた青春ストーリーに決まった時、そんなもの俺には絶対書けないと思った。
まず、俺のプライドが邪魔をする。
そんな俺に次の日降ってきた話は、これもまた、最悪だった。
俺が、脚本と監督をやめる代わりに、そのミュージカルの主役をやるというものだった。
主役と脚本。
ある意味究極な選択を強いられ、どちらがマシか、天秤にかける。
この俺から恋愛もののストーリーが浮かんでくるなんて考えられない。考えたくもない。
まだ、主役を演じる方がましだ。
何も考えずに心を閉じて演じてしまえばいい。
そう思った。
だから、主役をする方を選んだ。
今思うと、あの時の俺は冷静さを欠きまくっていたと思う。
あのミーハーな白井の行動くらい、いつもなら簡単に予想できたはずだが、白井が、恋愛のシーンをここまで甘ったるいものにするとは、そのとき少しも考えていなかったのだ。
他のシーンは、演じやすく感動もする、かなりいい作品に仕上がっていると思うのだが、そこだけ少女マンガかよと突っ込みたくなる甘さ。
そんなものを、この俺にどう演じろというのか。
嫌な顔してでもやってるんだ。
多目に見てほしい。
そんな俺の気持ちを知らない筈がないくせに、もっと優しく抱き寄せろだの、もっと甘く囁けだの、もっと切なそうに見つめろだの、いちいち吐き気がすることを言ってくる。
いつもの俺だったら、もう既に投げ出しているだろう。
しかし、ここまで投げ出さずにやれているのはヒロイン役があいつ、純怜だからなのかもしれない。
それが、今の俺には唯一の救いになっている。
そんなあいつもこのシーンはかなり嫌がっているらしい。
それを聞いて''安心''している俺。
クラスの奴らがみんな真剣だから、これであいつまで真剣だったら居心地が悪くなる。
「…俺は何を考えているんだ、まったく。」
こんな主役を演じるのは心底嫌だが、それでも今のは俺を信じて主役を任せてきたクラスの奴らを裏切るような最悪な考えだった。
どこから来ているのか分からない''安心''感。
いや、本当は自分でも薄々分かってきているのかもしれない。
その''安心''感を認めたくなくて、頭に浮かんできた言い訳がさっきのだ。
本当、我ながら情けねえ。
そんな言い訳するくらいなら、もう認めたほうがマシだ。
少しずつだが、純怜に惹かれてきているらしい。
こんなことは初めてだ。
ウィーンにいたときから、それなりにモテた。
彼女を選べるくらいに。
だが、心が傾いた女は1人もいなかった。
この俺がよりによって、あいつに惹かれ始めるとはな…。
「…くそ。」
ますますやりにくい。
「奏、お前かなり参ってるな。」