恋色シンフォニー


「そろそろ時間ね。行くわよ、早乙女」
「うん。じゃあね、圭太郎くん。楽しんでいってね。ブラ1、泣かせるわよぉ〜」
「期待してる」

必死で気持ちを立て直す。
しっかりしなきゃ。

ふと、隣に気配を感じ、顔を上げると、……早瀬さん。
シャネルのエゴイスト・プラチナムの香りが、ふわっと漂った。

「お邪魔して、ごめんなさいね」

その割には、楽しそうなお顔ですね。

「三神の相手、大変でしょう? 音楽バカだから」

“私の方が、あなたより三神をよく知っている”
っていうことですか?

「……そんな風に感じたことはありません」

それは本当。
ストイックだなぁと思うけれど。
仕事はきっちりしているし。

早瀬さんはますます楽しそうな笑顔になった。

「つまらないことを言いました。今日はお二人で楽しんでいらしてね。ごきげんよう」

……楽しめ、と?
こんな気持ちで?

早瀬さんは、出口に向かい歩いていき、三神くんに、すれ違いざま何かをささやいた。
見ていられない。
私は姿勢を戻し、じっと手元のカップを見つめる。

久々に、こんなどろどろした気持ちになった。

……嫉妬だ。
醜い。
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