恋色シンフォニー
「心配だから言わせてもらうけど、橘さん、いつも遅くまで会社にいるんでしょ? 身体壊すよ? 橘さんが身体壊しても会社は面倒みてくれないよ?」

落ち着いたテノールの声。
静かに、諭すような口調。

な、なんで突然お説教されなくてはいけないのか⁉︎
びっくりして、言葉が出ない。

「責任感が強いのは、橘さんのすごくいいところだと思う。だけど、効率のいいやり方にするとか、割り切るとか、いろいろ方法はあると思うよ。
自分の身体、守れるのは自分だけだよ。今はいいかもしれないけど、歳を重ねてから身体に何かあったとき、後悔しても遅いんだよ?」

正論。

正論だけど、いや、正論すぎて、余計にカチンときた。

「だから三神くんは早く帰って自分をいたわってるわけね」

「仕事だけが人生じゃない」

男性として勇気ある発言だわね。

私たちの間に沈黙が落ちたとき、第二楽章第1部の出だし、弦とティンパニの激しい音が鳴り響いた。

曲を止める。

いよいよ、沈黙。
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