恋色シンフォニー

ほんとに客席は満員になった。
係りの人が空席を探して案内してたので、立ち見は出てないみたいだけど。

最初は、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲 ホ短調。

私はバッグからハンカチを取り出す。
この曲は3楽章通して演奏されるから、途中でハンカチを取り出す余裕はない。

期待に満ちている雰囲気の中、ステージにオケのメンバーが出てきた。
コンマスの席には、ショートカットで、スラッと背の高い女性が立つ。

オケのチューニングの音は、いつもならドキドキワクワクするものなのに、今日は緊張感がいっそう高まって、気持ち悪くなってきた。

チューニングの音が静まり、静寂が訪れる。

うう、耐え難い。

私がリストのピアノ協奏曲でソリを弾いた時のことを思い出す。
誰にも頼れない、自分で何とかするしかない。
あんな想い、圭太郎は何度もしてきてるんだ。
……そりゃメンタル強くなるわよね。


緊張感をたっぷり味わった後。
カツカツと、ステージ袖から足音が響いてきて、拍手が起こる。
ほっとした。

圭太郎が先に。
そして、後ろから、早瀬さん。

圭太郎も早瀬さんも、僅かに微笑み、自信に満ちた表情はキラキラしている。
落ち着いていて、いい緊張感に包まれているのがわかった。

燕尾服を着て、髪型を整えた圭太郎は、いつもよりもかっこよさが増していて、ドキっとする。

早瀬さんは、今日もさりげない女子力を感じさせる服装と髪型。

ああ、素敵だな、2人とも。
今から私達を非日常の世界へ連れていってくれるんだ。

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