恋色シンフォニー
「設楽先生、綾乃さん、ご来場ありがとうございました」
早瀬さんが小さなスーツケースを引いてやってきた。
わ、かわいい格好。
ふわっとしたベージュ色のワンピースに、ブラウンのカーディガン。
お嬢様の本領発揮、な感じのファッションだ。
「お疲れ様。ナイスファイト」
設楽さんが声をかけると、早瀬さんがはにかんだ。
普通の女の子の、かわいい笑顔。
そして、私に向き直る。
「橘綾乃さん。改めまして、早瀬マリです」
「私の名前……?」
「職業柄、人を覚えるのは得意なの。それに、大学時代の演奏会のDVD、見せていただきました」
「ええっ⁉︎」
「合宿に加地さんが持ってきて、三神が見ていたから、私も見たのよ」
信じられない! 恥ずかしすぎる!
圭太郎め!
「お聴き苦しいものをすみません……」
「いえいえ。青春の輝きが感じられて、まぶしかったわ。いつか機会があったら、ご一緒したいものね」
「老後の楽しみにします……」
「おほほほほ。面白いわ、綾乃さん。
分かりました。私、おばあちゃんになっても指揮を続けますから、約束よ?」
いたずらっぽく笑う早瀬さんは、とてもキュート。