恋色シンフォニー
「設楽君、久しぶり」
鷹彦さんは、設楽さんの方を向く。
「お世話になっております」
あれ、設楽さん、ちょっとトゲがある?
「楽器の調子はどうですか?」
「おかげさまで、良好です」

初めて見たかも、設楽さんの人に対する素っ気ない態度。
ここで、マリさんが雰囲気を察したのか、絶妙のタイミングでカットインする。

「綾乃さん、いつぞやは色々ごめんなさいね」
「いえ、あの、こちらこそ、お気遣いありがとうございました、いろいろと……。それから、ひとつ、訂正させてもらいたくて」
「何でしょう?」

「三神くん、やっぱり音楽バカです」

マリさんは口元を覆い、楽しそうにくすくす笑う。設楽さんは爆笑。鷹彦さんは苦笑。

「私もよく夫に言われます。ね、綾乃さん、連絡先教えてくださらない? お茶でもお食事でも、何なら飲みにでも行きたいわ」

私も、もっとマリさんと話してみたい。
携帯番号とメールアドレスを交換する。

「では、近いうちにご連絡しますね。綾乃さんも遠慮せずに、三神の愚痴でも何でも送っていただけると楽しいわ」

マリさんは楽しいだろうけど、圭太郎、嫌がるだろうな……。

「それでは、お先に失礼させていただきます。ごきげんよう」
早瀬夫妻は腕を組み、セレブオーラを発しながら、出口に向かっていった。


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