恋色シンフォニー
13

誰もいない一軒家というのは、少し怖い。
「お邪魔しまーす……」
しん、とした家。
マンションとは違う、寂寥感。
圭太郎はいつも、ひとりで、こんな思いを味わっているんだ……。

圭太郎に事前にお願いされていたことは、『家で待っていてほしい』だった。

買ってきた晩御飯の材料を冷蔵庫にしまい、和室に入る。
仏壇の前に座り、お線香をあげ、手を合わせた。

「改めまして、橘綾乃と申します。いつぞやは、大変失礼いたしました。圭太郎さんとは、一緒の会社で働いておりまして、お付き合いさせていただいております。
本日はお邪魔しております。圭太郎さんはしばらくしたら帰ってきます。お台所お借りします」

もちろん返答はないけど、こんなご挨拶でよろしいのかしら。

私は台所で料理を作り始めた。
圭太郎のお願いはあと2つ。

『打ち上げに参加してくるけど、ろくに食べられなくて夜にお腹空くだろうから、晩御飯一緒に食べよう』

『泊まって、月曜日は僕の家から会社に行ってほしい。一晩、綾乃と一緒にいたい』

なんてかわいいワガママだ。


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